大晦日のお買い物

 今年も今日で最後。正月用の食材を買おうと、太宰とスーパーへ赴いた。大晦日だけあって、店内は人でいっぱいだ。
「さぁ中也、これに乗るんだ」
 そう云って太宰が寄越してきたのは、キャラクターがついた車を模したカートだった。
「ざっけんな! 誰がそんなのに乗るか」
「え~、中也に丁度いいと思ったんだけどなぁ」
 太宰はそう文句を云いつつそのカートを返し、普通のカートを持ってきた。
「よし、じゃあこっちおいで」
「は? 何だよ」
「いいからいいから」
 俺にカートを引かせて、とびきり高い蟹でも取りに行くつもりか? 俺は太宰の意図が分からないまま、太宰に歩み寄った。
「はい、今日はこれで行こう」
 目の前にカートを配置され、持ち手を握らされる。「なんだ、矢っ張り一人で蟹でも見に行くのか」と思っていると、俺の背後に太宰が来た。太宰もカートの持ち手を掴み、俺は後ろからハグされているような恰好になった。今は二人きりではなく周りに大勢人が居るので、それだけのことなのに、不覚にもドキドキしてしまう。
「これならはぐれないし、一緒に見てまわれるよ」
 まぁ悪くないしいいやと思い、太宰と一緒に歩き出した。ふと近くを通り過ぎた親子が視界に入る。俺たちと似た体勢だ。子供がカートの下段に足を乗せ、親にもたれ掛かっていた。これではまるで、子供みたいじゃないか。大体、はぐれるわけないだろ。一気に恥ずかしくなって、カッと顔が赤くなるのを感じた。
「馬鹿野郎、俺は子供じゃないっての」
 躰を捩って太宰の腕の中から出ようとする。
「こらこら、人もいっぱいだし危ないでしょ」
 太宰は離れるどころか、俺をぎゅっと抱き締めてきた。おい、ここ人がたくさん居るんだぞ。
「暴れるのやめたら、抱き締めるのはやめてあげる」
 それって、この体勢は変わらないってことだろ。でも、人前で抱き締められている今の状態の方がまずい。仕方なく太宰の腕に収まった。
「うん、いい子いい子」
 わしゃわしゃと頭を撫でられる。あぁ、さっきから人が邪魔なんだよ。抱き締められるのも、頭撫でられるのも好きなのに。どうせされるなら、思う存分堪能したい。
「……分かったから、早く買って帰ろうぜ」
「りょーかい!」

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